忌野清志郎「焦らず急がない、ゆるい暮らし…それを支えているのが“自転車”である。」

[記事更新日]2017/04/21

Man on bike in New York City

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日本の満員電車で感じるストレスは、戦闘機のパイロットのストレスよりも大きい

近年、通勤の手段として自転車を選ぶ人が増えてきています。こうした選択は、混雑からくるストレスを避けることにとどまらず、その日のパフォーマンスにも大きな影響を与えるようです。

米国のクレムソン大学が様々な通勤タイプの人を対象とした調査で、彼らの通勤中の変化する機嫌を調べた結果、自転車通勤のアメリカ人は自動車、電車、そしてバス通勤の人よりも平均的に「機嫌が良かった」と発表しました。

運動が人間の気分を高めることはよく知られている事実ですが、自転車に乗ることで人は簡単に何かを達成する気持ちを得られるのではないかと、クレムソン大学の調査に携わった労働統計局のエリック・モリス氏は自転車と気分の向上との関係を分析しています。

Young couple with bike at the city

↑バス通勤の人よりも、自転車通勤の人の方が明らかに機嫌が良い

アメリカの健康食品会社のマーケティング担当を務めるレスリー・エスリッジ氏は、新しい土地コロラド州に引っ越したことをきっかけに、25kmもはなれた会社への通勤方法を自転車へと切り替えました。

エスリッジ氏によると「友達からはおかしいと言われるけど、他の乗り物に乗って通勤する方がおかしくなっちゃう。動きやすい格好をして自分のペースで、時に自転車仲間と一緒に通勤すると逆に正気を保てるの」と、自転車に乗ることで心を空っぽにする事ができ、自分の内面を見つめなおす時間を作ることができると自転車に乗ることの楽しさを語ります。

Rearview shot of a young man riding a bicycle outdoorshttp://195.154.178.81/DATA/i_collage/pi/shoots/783453.jpg

↑自転車に乗ることで自分の内面を見つめ直すことができる

一方で、アメリカ人約1,000名の女性就業者を対象に行った調査では、その多くが家事などの1日のうちに行う様々な活動のなかで、通勤が一番楽しめないものだと答えています。

日本でも国土交通省の調査によれば、一日で最も混雑する朝の時間は混雑率が200%を越え、定員の2倍もの利用者が電車に詰め込まれて毎日出勤していると発表しており、またイギリスの心理学者のデイビッド・ルイス氏によれば、ラッシュ時の通勤者が感じるストレスは暴動警官や、戦闘パイロットが感じるストレスよりも大きいそうです。

busy commuters running down the stairs of the station

↑通勤が苦痛で退屈なのは、どこの国も同じこと

専門家の話では渋滞などの予測不可能な出来事や、それらに対してのコントロール喪失感などから、人はストレスを感じて心理状態へ大いに影響を及ぼしているという事ですし、実際、毎日の通勤ラッシュの渋滞や満員電車を思い浮かべるだけでも嫌になるように、外的要因が日々私たちに与える影響は、想像以上に大きのかもしれません。

カナダ・エドモントン州在住の地域活動コンサルタントを務めるショーン・ブラベンダー氏も自宅から14km離れた会社へ自転車で通勤するひとりであり、自転車に乗ったことで変わった自らのライフスタイルを次のように述べています。

「自転車で通勤する日としない日では身体面また精神面においてすごい差がでるよ。自転車に乗った日のストレスの軽減が予想以上だったよ。」

Photo of a man lying on the bench and typing on his smart phone

↑自転車に乗った日は、なぜか体の調子が良いのがよく分かる

また、ストレスを感じる通勤者よりも自転車などのストレスをあまり感じない方法で通勤する人たちのほうが、仕事での集中力と創造力に長けており、自転車に乗ることで、病欠する率が年間約15%も下がるということがアメリカの調査でも証明されていることから、多くの企業が従業員のサイクリング通勤に必要な設備を整え始めています。

イギリスの統計によると、社員が自転車通勤をした結果、勤務中のミスの軽減、集中力、そして創造力向上などから会社が得るその投資リターンは0.33%〜6.5%という数字も出ており、数字にばらつきはあるようですが、会社全体で従業員の健康を促進することで少なからず会社の利益が上がり、可能性も広がるようです。

Handsome male listening music on cell phone. Bicycle on red wall

↑自転車に投資することが確実な会社の利益に繋がる

実際のところ、普段の通勤・通学のラッシュ風景を思い返してみれば、満員電車やバスの中は携帯やタブレットに意識を集中させている人や、渋滞にまきこまれ苛立ちを必死に抑えようとしている車のドライバーばかりで、移動時間を有意義に使っている人は少ないのが事実です。

ある調査では、週5日で1日15分間ペダルを漕ぐだけでも1年間で約5kg分の脂肪を燃焼することができ、習慣的なサイクリングで大腸癌や乳がんなどの健康上のリスク軽減へとつながると発表されている事をみても、身近にある自転車は私たちの人生を変えてくれる様々な可能性を持ちあわせています。

Picture of a mature man using bicycle sharing system

↑1日15分ペダルを漕ぐだけでも、1年間で大きな成果を得ることができる

自転車の利用を加速する各国の取り組み

日本と同じ島国であるイギリスでは、2003年から平日午前7時〜午後6時の間にロンドン市内を走る車に対し課せられる「渋滞税」を導入する事で車両数を減らし、また市の中心部に向かって続く幅が広めの、場所によっては車線内で右折できる箇所などが設けられた自転車専用レーン「サイクル・スーパーハイウェイ(CS)」を設置してサイクリストをサポートし、国民全体の健康促進を図っているようです。(1)

イギリスのある調査レポートによると、2006〜2011年の5年間でサイクリングする人の数が50%も増加し、そのうち80%が「サイクル・スーパーハイウェイはサイクリストにとって道路上の安全面の改善に繋がっている」と答えています。

車道で車をすり抜けるように走る事を余儀なくされていた従来の道に比べると安全に走る事ができ、また車にとっても自転車との接触事故の心配も軽減されており、実際2013年はロンドンでの死亡/重症事故率が過去最低を記録しました。

A cycle lane or bike lane was built at the center of Paulista Avenue located at Sao Paulo city, Brazil. It was opened at June/2015

↑ロンドンでは、電車や車なんかで通勤するよりも自転車で通勤する方が圧倒的にクール

ニューヨークでも自転車、バス、そして徒歩の人に、より多くの空間を提供し、さらにニューヨークをより楽しんでもらおうと交通局長であるジャネット・サディクカーン氏と彼女のチームは、50kmにも渡る距離に自転車専用レーンを設け、2013年には米国で一番大きな自転車シェアリングの会社「シティ・バイク(Citi Bike)」を立ち上げ、現在ニューヨークはロンドンと並ぶ、世界的な自転車都市として大きく成長し始めています。

残念ながら、このニューヨークでの自転車シェアリングは開始されて間もないため、環境改善などのデータは未だ明確には発表されていませんが、首都ワシントンDCで開始された同様の自転車共用プログラムのデータを見てみると、開始後から約41%もの人が移動手段を車から自転車へと切り替えており、それは車などから排出される空気中の二酸化炭素を重さにして、一人当たり約221kgも削減できているという計算になるそうです。

Group of young friends strrolling through the city with their bicycles. They are happy and spending joyful time together.↑ワシントンDCでは41%もの人が移動手段を車から自転車へと切り替えている

もはや自転車通勤を選ばないわけにはいかない

「自転車に乗らない日が3日続くと体調が悪くなってしまう」と言っていた、今は亡きロックミュージシャンの忌野清志郎さんも自転車を愛用していたことで有名です。

彼はせめて仕事を離れたときだけでも、思いっきり肩の力を抜いて、自分らしくいたいと思ったことがきっかけで自転車に乗ることが日課となり、サドルの上では、風や雨など自然への畏敬の念を強く感じることが、サイクリングの魅力だと生前に語っています。(2)

また彼は、「ただ走るだけのサイクリングではなく、色々と感じながらぺダルを漕いだ経験は、自身の価値観にも大いに影響した」と感じており、勝ち負けにこだわって頑張りすぎると息切れするので、どんな道でもいつかは着くだろうと、ゆるい気持ちで走るスタイルは、他人からの評価や価値観を気にする事なくマイペースに生きる事を教えてくれたとも述べています。(3)

Tokyo, Japan - May 29, 2011: A Japanese woman rides her bicycle while holding an umbrella on a rainy Sunday in the Ojima area of Tokyo.↑雨水に当たることできづくことも多い

日本全体では自転車というとヘルメットを着用し、風を切って走るマウンテンバイクよりも「ママチャリ」などの徒歩プラスアルファのような感覚が強く根付いている為に、自転車専用レーンが設置されている場所は少ないのが現実ですが、そんな日本でも実は自転車で通勤する「自転車ツーキニスト」の動きが出てきているようです。

語源の発案者である疋田智氏は、自分のペースで進める自転車に乗ると「これくらいでいいじゃん」とか、「これくらいのほうが気持ち良いよ」と自動車や電車通勤で鈍っている私たちの本来の感覚を蘇らせてくれると述べており、また彼がわずか1年間で自然に17kgもの減量に成功した事で、無理なくできるダイエット法としても注目を集め、ゆっくりながらも自転車ツーキニストは増加傾向にあるようです。

Young man enjoys bicycle ride in the city, followed by his female partner, also on bike

↑自転車は人間的感覚を取り戻してくれる

名古屋市では市の職員が自転車で通勤すると距離に応じて毎月手当が給付されたり、「株式会社はてな」のように環境に優しい自転車で通勤をする事で、「自転車通勤手当」が出る組織が国内でも注目を浴びつつあるなかで、自転車を促進する社会的動きが今後もっと加速していくことが予想されます。

故忌野清志郎氏は自転車が彼のライフスタイルだけでなく、価値観や人生観までも変えた事を生前、次のように話しています。

「なにごとにも余力を残す事。仕事でも遊びでも、出かける2時間前には起床し、ゆっくり朝風呂に浸かる。忙しくても自転車に乗って仕事場に出かける。焦らず急がない、ゆるい暮らし…それを支えているのが“自転車”である。」(4)

すぐに自転車通勤に変更するのではなく、まずは平日少しでも早起きし、時間に余裕を作ったり、駅までバスではなく自転車に乗って行ったり、休みの日には近所を家族と一緒にサイクリングで行った事のない道を探索してみたり…可能性を秘めた自転車を自身のライフスタイルに少し取り入れる努力をすることで、ゆるく確実に私たちの可能性も広がるかもしれません。

  1. 参考書籍
  2. 1.秋山岳志 「自転車が街を変える」(集英社新書)p.22
  3. 2.忌野清志郎 「サイクリング・ブルース」(小学館eBooks)Loc 43
  4. 3.忌野清志郎 「サイクリング・ブルース」(小学館eBooks)Loc 33
  5. 4.忌野清志郎 「サイクリング・ブルース」(小学館eBooks)Loc 71

この記事の情報を用いて行う行動に関する判断・決定は、利用者ご自身の責任において行っていただくと共に、必要に応じてご自身で専門家等に相談されることを推奨いたします。弊社は、当記事の情報(個人の感想等を含む)と、この情報を用いて行う利用者の判断について、一切の責任を負うものではございません。

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